判例から見る無効事例
自筆証書遺言遺言は、形式的要件(全文自書、日付の記載がある、署名、捺印がある…)の不備で無効になってしまうケースは、実務をやっているとかなりの確率で発生し、結果的に遺産分割協議書で手続きを進めていく流れも少なくありません。
その自筆証書遺言のデメリットを取り除いたものが公正証書遺言なのですが、無効になる余地がないかというとそんなこともないのです。
過去の判例を調べると、どういったケースで遺言無効の判決が下されているか見えてきます。なので今回は、実際の判例をいくつかご紹介していきます。
①事件番号平成13(ネ)376/名古屋高裁審
判決は,もともと原審では遺言者に遺言能力ありと認定したが,それは誤りであり、原判決がこのような誤った判断をなしたのは,いわゆるまだらぼけの症状があり、知的能力は遺言作成当時は問題なかったと認定されてしまったためであります。しかし、よくよくその症状を調べてみるとアルツハイマーであることは明らかであり、遺言をする能力はなかったと認められた事案です。
②東京高裁平成27年8月27日判決
これは、公正証書遺言の要件である「口授」が問題となった事案です。公証人の質問に対し、頷くなど肯定的な反応を示したのみでは、口授には当たらないとして無効になってしまいました。遺言者自身が遺言の趣旨、内容を理解し、自分の言葉で財産をどのように処分するかを伝えないと、口授したことにはならないようです。
③東京地裁平成28年1月28日判決
今回も①のように、遺言能力が問題になった事案です。こちらのケースの場合は、成年後見人開始審判申立て後、その開始決定がなされるまでに書かれた遺言でした。開始決定がなされていない以上、遺言能力の部分はクリアできているように思えますが、公正証書遺言作成の約6ヶ月前に任意後見監督人選任申立ての書類が裁判所に提出されており、その時の診断書について、遺言能力があるとは認定し難い記載があり、遺言時の前後においてもそのような状況が継続していたと判断したものです。
遺言無効の訴えを立証していく際のポイント
上記のケースのように疑義が生じた場合、公正証書遺言の内容に納得のいかない相続人から、遺言無効の訴えの確認訴訟を提起される可能性があります。その立証責任は訴えを提起した相続人となりますが、どのようなところに着目して立証していくか、以下でご紹介します。
①遺言能力があるかどうか
まだらぼけや認知症など、以前このような診断を受けた場合や、その疑いがある場合などは、のちのち争点となってくるケースが多いようです。判断能力もないのに、無理に書かせたのではないか?と思われかねません。
②遺言の内容を遺言者が理解しているか
遺言には予備的遺言(受遺者が先に亡くなった場合に備えて、次は誰に相続財産を渡すか書き加えることができる)を記載することができますが、複数の予防線を張ったり、細かに財産の相続先を指定してしまうと、遺言の内容が複雑になり、特に高齢の方だと、本当に本人の意思なのか?と疑われてしまう可能性も発生してしまいます。よって、この遺言の明快さというところも争点になっていきます。
③遺言の内容に不自然な点はないか
あまり付き合いのなかった受遺者に対して財産の大半を遺贈する文言や、何度も遺言書を大幅に作成し直しているなど、誰かが関与して無理やり書かせている可能性があったりすると、その遺言書は遺言者の適切な判断能力のもとで書かれたものではないと推認されるため、この部分も注意すべきポイントです。
まとめ
公正証書遺言の無効になった判例と、どういった部分が争点になるのかご紹介しました。上記を踏まえて公正証書遺言をする際には、
①遺言者が遺言内容を理解できるくらい単純かつ明快か
②そもそも認知症や高齢で判断能力に疑義が生じていないか
③特定の誰かに全てを遺贈するなど、極端な内容ではないか
に気をつけながら作成すると、無効になるリスクは減らすことができるかと思います。
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